王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 なぜフレイザーがウィルのことを知っているのかわからない。

 暗黒の瞳を探ってもそこには何も見えず、ただマリーの光は全て吸い取られてしまいそうで震え上がった。

 そこから逃げようと身をよじると、部屋の外に足音が聞こえてきて、フレイザーはマリーをすっと手放した。

 再び戻ってきた両親に、何事も無かったかのようににこやかな笑顔を振りまくフレイザー。

 その笑顔の裏には何かが潜んでいるような気がしてならない。

 わからない何かにマリーは怯え、せっかく抱いた心の温かさまでも脅かされているようで、救いを求めるようにウィルの姿を心に描いた。

 そんなマリーの心中を知らず、フレイザーに嬉々としてへつらう両親の笑みに、マリーは押し寄せる後ろめたさを感じた。




.
< 91 / 239 >

この作品をシェア

pagetop