王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「やあ、ウィリアム王太子殿下、ご機嫌はいかがかな?」

 
 敬意ある呼称を口にしながらも、フレイザーは横柄な態度で部屋の中央に置かれたソファにどっかりと座り込んだ。


「見ての通り、あまりよくはないな」


 長い脚を組むフレイザーのいつもの様子に、ウィルは目も合わせずにわざとらしい溜め息を吐いた。


「それは残念だ。
 私はいささか高揚しているというのに」

「またどこぞの令嬢の味見の話か? 大して興味はないな」

「まあ、それもあるが。興味がないなら別の話にしよう。
 先日の社交パーティーは、楽しんでいただけたようでなによりだよ」


 含みを持たせたフレイザーのいやらしい言い方に、ウィルは今日初めてそちらに細めた目を向けた。

 案の定、フレイザーは挑戦的な笑みを浮かべていた。

 この男はいつだってそうだ。

 王太子であるウィルとは遠縁に当たり、彼に対し、堅苦しい態度で接することをしない数少ない人間だ。

 アンダーソン家が王家に最も近い爵位ということもあって、将来の国政の片棒を担うための公務と称し、この王城へは比較的自由に出入りができることになっている。
< 93 / 239 >

この作品をシェア

pagetop