君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
書類作業に追われているカドラスは、期待したような反応は見せてくれなかった。

「そうか。バルトにはこちらから連絡しておく。あとは彼の指示に従うように」
その一言のみで、すぐに書類に目を落とした。
諸手を挙げるとは思っていなかったが、それでももう少し喜んでくれてもいいものだろう。

執務室を出たとたん、急に疲れが襲ってきた。
体が重い。早く部屋へ戻りたいのに、足が全然前へ進まない。
まともに食事を取らなかったせいだろう。体の中が本当に空っぽで、軽いというより空虚だった。

「フィー?」
不意に声をかけられた。
顔を上げると、目の前にアルベールが立っていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
小さくうなずいて、笑顔を返す。

レイのことで頭がいっぱいだったし、早く部屋に戻りたかったが、彼にも伝えなければいけない話しがあった。

「先日の廊下での一件なんですが。レイ様はもうお怒りではありません」
「本当に!?」
思いの外、大きな声だった。
< 98 / 122 >

この作品をシェア

pagetop