恋する病棟、24時




嘘です、ずっと氷川先生のこと考えてました。


「俺はここでカルテ眺めてるので何かあったら言ってください」

「あ、はい!」


そう言って彼の視線は手元の資料に落とされた。お昼も回診やら検査やらで忙しかったはずなのに夜も真面目に仕事をして、それは当たり前のはずなのに疲れを全く見せないから凄いと思う。
氷川先生の周りからの信頼はそんな彼の真面目さから来るものだった。

私もちゃんと見習おう。取り敢えず二人きりのことを意識せずにお昼の仕事の残りに手を付け始めた。


「(あれ、ここ……)」


何度か患者さんのトイレなどの付き添いで席を立つなどした後、私は外来患者さんのことで気になることを見つけた。
うーんと声を漏らすとそれに気が付いた氷川先生がこちらを向く。


「どうかしましたか?」


彼は腰を上げると私の机にまで足を運んでくれる。


「この前退院した長谷川さんなんですけどもう暫く検査には……」


来てない、と話が続けられなくなったのには理由があった。氷川先生は後ろから私に近付くと肩の辺りから顔を出してパソコンの画面を覗き込む。
直ぐ隣に彼の顔があることに気が付くと口から言葉が出てこなかったのだ。


「あぁ、長谷川さんは大丈夫です。前回いらっしゃった時に」


そう彼は話を続けるけれど正直耳元に当たる息が気になって全く頭に入ってこない。形のいい唇から発せられるその低い声で囁かれてときめかない女子はこの世にいないだろう。



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