恋する病棟、24時




『男と女の匂いがする』


彼の言葉を気にしているのは、私もそれに気が付いていたからだ。
あの一面はまだ私も知らなかったな。仕事上の関わりだけとは思えない程に仲が睦じいのを感じた。

それに「司」って、氷川先生のことを下の名前で呼んでた。


「西原さん、西原さん?」

「っ、はい」

「……いや、回診お疲れ様でした」


氷川先生の言葉に「お疲れ様です」と返す。少しボーッとしていた。ここでは一瞬の間違いがとんでもない事態に変貌することだってあるのに。
だけどさっきからずっとあの人のことばかりを考えてしまう。私よりもずっと先にいる、あの人。


「疲れてますか? 顔色が少し悪い。休んだ方が」

「な、何言ってるんですか! 大丈夫ですよ!」

「医者の目は誤魔化せませんけど」


そう言われて思わず視線を逸らした。逸らしたのが間違いだった。何かがあると言ってしまっているのも同然だから。
一花、と名前で呼ばれて私は体を強張らせた。


「一花、今日の夜……」

「あ、私重岡さんの点滴の準備してきますね!」


咄嗟にそう言うと私は彼から離れた。どうしよう、あからさまだったかもしれない。絶対に彼も私が避けたことを分かっているはずだ。
自分が何をしたいのか分からない。だけど何かをしていないと怖いことばかり考えてしまうから。



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