恋する病棟、24時



机から顔を上げると彼が部屋に入ってくるのが見えた。するとその瞬間、その場にいた看護師たちからほうっと光悦な溜息が漏れる。どれも凛々しい彼の姿に見惚れて出たものだ。
改めて見ても神様が誰よりも時間を掛けて顔を整形したと分かる格好良さ。あんなイケメンが白衣なんか着た時には何人の女を殺せるのだろう。いや、医者だから救うのか?

一瞬目が合ったような気がしたけれど私は思わず顔を背けてしまった。


「はい、おはよー。カンファレンス始めよっかー」


そう言って彼に続いて入ってきたのは同様に病棟医の塩野先生。仕事に移る前に担当患者の病状や新しく入院する患者についての説明を全員で行うのだ。
そうだ、まずは仕事を第一優先にしないと。氷川先生には時間が出来次第声を掛けるしかない。

私は思考を仕事に変えた。


そんなふうに意気込んでいたのに、


「(普通に仕事が忙しすぎて全然氷川先生と話が出来ない)」


病棟看護師の仕事は病棟医による回診の補助、患者のリハビリ、昼食や入浴などのお世話などetc。もちろん手を抜く仕事なんかひとつもない。
そんな状況で氷川先生の誤解を解く時間も出来るはずもなく。


「(あ、氷川先生)」


検査があるのか、お年寄りの入院患者である女性を引率している姿が目に入る。彼が忙しくしていないところなんて見たことがなかった。
まだ27歳って若いのに看護師や患者さんまで頼られているのだから凄い。

やっぱり私と付き合うなんて言ったのは何かの間違いでは?


「一花、一花」

「ん、どうしたの?」
これまた同期である貴美子が困ったように私に声を掛けてくる。



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