クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 今日、一番と言える酷い転倒だ。

「痛い……」

 上手く手をつくことも出来ずに、顔まで地面に打ち付けてしまったし、左足を捻ってしまったようで、凄く痛い。

 あと少しなのに、なかなか上手く立ち上がることが出来なくて、再び強い恐怖が襲って来た。

 ヘルマンは頑張ってくれているだろうけど、サウル王子を倒す事なんて無理だろう。

きっと、ほんの少しの間、抑えておくので精一杯。

 二人の力の差はかなりありそうに見えた。実際そうだからサウル王子はひとりでやって来たのだ。反撃なんて出来ないだろうと考えて。
 サウル王子の油断が無ければ、ヘルマンが抑えられる訳がない。
 
 だから早く立ち上がらないと追いつかれてしまうのに、動けないなんて。

「動いて!」

 言うことを聞かない足に力を入れる。だけど鋭い痛みが走り、呻いてしまう。

 どうして私はただ走ることすら出来ないのだろう。後少しのこんな場面で転んでしまったんだろう。

 自分自身が情けなくて、悔しくて、涙が浮かんで来る。

 ずっと泣くのを我慢していたけれど、心が折れてしまった今、耐えられない。

「リュシオン……助けて」

 口にするとますます涙が溢れて来た。

 足の痛みはますます酷くなる。折れてしまったのかもしれない。怖くて怪我を確かめることすら出来ないでいると、ガサリと木が揺れる音がした。

「あ……」

 ついに追いつかれてしまったの? 恐怖に固まる私の視界に見慣れた人が現れる。

「……フレッド?」

 どうしてここにフレッドが? 
 状況が理解出来なくて、身動きがとれない。

 私に気付いたフレッドが歩みを止めて、大きく目を見開いた。

「え……グレーテ様?」

 呆然としたように呟いたフレッドは、直ぐに我に返ったようで、後ろを向きながら大声で叫んだ。

「リュシオン様!」

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