クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 その後は他愛無い話をしながらゆっくり進んだ。
 しばらくすると、リュシオンが言った。

「今日はどの辺りを回りますか?」
「実は具体的に行きたい所はないの。のんびりとアトレゼを散策出来たらいいなと思って」

 本音は、リュシオンと出かけられるならどこでもいい。

 肝心の本人は私のそんな気持ちに少しも気付かないようで、真面目な顔であれこれ行き先を提案して来る。

「アトレゼ通りならグレーテ姫が身に付けてもおかしくない質の良い品の店があると思います。通りの北の端には多様な飲食店が集まっている一帯があり珍しいものが食べられると評判です」
「リュシオンのお勧めは?」
「そうですね……飲食店の中で新鮮な魚を食べられる店があり、私も一度行きましたがとても美味しかったですよ。そう言えばグレーテ姫は魚は大丈夫ですか?」
「もちろん大丈夫よ、アンテス育ちだもの」

 魚は王都では高級品らしいけど、アンテスは領地の北側に海がある為、一般の家庭でも手に入りやすい。アンテス育ちなら身分の上下に関わらず、誰もが食べ慣れている人気のある食材だ。

 リュシオンの言う評判の店では特別美味しい魚料理が食べられるのだろうか、とても楽しみだ。

「良かった。では昼食はその店で取りましょう。魚好きのラウラ姫も褒めていた店なので間違いないと思います」
「え、お姉様が?」
「はい。フェルザー公爵と何度かお忍びで行かれたそうですよ」
「そう……」

 リュシオンに他意は無いと頭では分かっているのに、気分が沈むのを止められなかった。

 リュシオンはお姉様の事はよく知っているのに、私の事は何も知らない。婚約した今も好きな食べ物さえ知らなかったくらいだ。

 ふたりは年も近く、長い付き合いなのだから、私より親しくて当然だけどその事実をリュシオンの口から聞くと堪えてしまう。
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