クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「グレーテ姫、どうかしましたか?」

 顔を強張らせてしまったからか、リュシオンが心配そうに聞いて来る。

 楽しい外出なのにこんな態度を取っては駄目だ。
 リュシオンの過去の事を気にしないように自信が欲しい。その為には今は私が婚約者なのだともっと実感したい。

「ねえリュシオン、お願いがあるの。私の事をグレーテと呼んで」

 私の言葉にリュシオンは少し驚いたようだった。呼び方については以前も頼んでいるから今更なぜ? とも思ったかもしれない。

 断られそうだと思い、私は先手を打ってもっともらしい言い訳をした。

「姫なんて言ったら街の人達に変に思われるわ。辺境伯の娘だってばれてしまうかもしれない。そうしたらせっかくの外出が楽しめなくなるかもしれないでしょう?」

 流暢に誤魔化しを言いながら自嘲した。私は何て子供っぽいのだろうと。
 姉と比べて自分の方がリュシオンに近いと、明らかな証が欲しくてわがままを言っているだけなのだ。

 私の真意を知らないリュシオンは、言い訳を真面目に受け取り頷いてくれた。

「確かにそうですね。分かりました。街にいる間はグレーテと呼ばせて頂きます」
「……良かった」

 ただ呼び捨てられただけなのに、凄く嬉しい。心が軽くなった気がする。その単純さに我ながら呆れてしまう。

「ずっとそう呼んで欲しい」

 調子に乗ってお願いしたけれど、リュシオンに、さらりとかわされてしまった。

「この先は坂が急になるので気をつけてください」

 相変わらず婚約者らしからぬ丁寧な口調。

 早くもっと近付きたいと願いながらリュシオンと共に坂を下った。

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