クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 それなりの規模の館の割りに、人が少ない気がする。

 騎士達が訓練する声も聞こえて来ない。それに、

「この館には子供がいないわね」
「そうですね。跡取りのヘルマン様はまだ独身だそうですし、使用人の子供も見かけません。なんだか寂しい所ですよね」

 ホリーは最後の部分を独り言のような小声で言うと、私の髪をまとめ終えた。



 フレッドとその部下達に護衛を頼み、町に出た。

 ベルツの町はアトレゼとは違い、のんびりした雰囲気だ。
 かと言って活気が無い訳ではなく、路面店の店先には新鮮そうな果物や野菜が所狭しと並べてあり、買い物をする地元の人々が通りを行きかっている。

 暖かな日差しに、ゆったりとした市場の空気。乗り気ではなかったけれど、外に出てよかった。良い気分転換になりそうだ。

「グレーテ様何か買いますか?」
「いえ、特に買いたいものは無いわ。見ているだけで楽しいし」
「そうですよね。館は怖いくらいシンとしてましたけど、町はそれなりに活気があってよかったです。子供達も沢山いますね。店番を手伝っている子もいますよ」

 ホリーの視線を追いかけると、食料品店の店先で品物を並べている少年がいた。

 売り場を整頓していく手つきはとても慣れているから、あのお店の子供なのかもしれない。

 買い物に来ているのか、キョロキョロと売り物を眺めながら走る少女もいる。


 リュシオンも子供の頃、ここに来たのだろうか。

 店の手伝いをする事は無かっただろうけど、時々は友達と買い物に来て、屋台の料理を買って食べたり。

 そんな事を考えたけれど、リュシオンの子供時代の姿はなかなか思いかべる事が出来なかった。

 私が初めてリュシオンに会った時、彼はもう大人で正式な騎士になっていたから。
 子供ゆえの無邪気さや無鉄砲さなんて、どこにも無かった。
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