騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
 


「……起きたのか」

「……っ!?」


と、ビアンカが上半身を起こしたところで、不意に冷たい声が投げられた。

弾かれたように振り向くと、視線の先には黒いローブに身を包んだ大柄の男が立っていた。


「起きずに、ずっと寝ていたほうが幸せだったかもしれないのにな」


男は言いながら、ニヤリと口角を上げて笑う。

赤毛の髪、高い鼻と釣り上がった目、軽薄そうな薄い唇。

床に倒れるビアンカを見下ろす目は冷ややかで、背筋がゾクリと粟立った。


「あ、あなたは誰!? ここはどこなの!?」


咄嗟に声を荒げて床についた手に力を込めると、再びしっとりとした布の感触が手のひらに触れた。

見れば情けでもかけたつもりなのか、床とビアンカの身体の間には薄汚れたシーツが一枚、敷かれている。


「まぁ、そう怯えるなよ王女殿。いや、今は王弟妃殿と呼んだほうがいいかな?」


口端を上げ、歪に笑う男。男は徐ろにビアンカのそばまでやってくると、彼女の顔を覗き込んだ。

ひどく淀んだグリーンの瞳が、品定めするように妖しく光る。

恐怖で身を固くしたビアンカは、両手を胸元の前で硬く握ると真っ直ぐに男の顔を睨み返した。

 
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