騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「ハハッ。女に睨まれるのも、悪くはないな。あの男が夢中になるだけあって、美しい顔立ちだ」
そう言うと、男はベロリと自身の唇を舐めた。
……一体、この男は何者だろうか。王宮内で一人でいたビアンカに声を掛けたのは、間違いなくこの男だ。意識を失う直前、視界に捉えた姿と声が一致する。
ビアンカはこの男に名を呼ばれ、振り向いたと同時に口元に布のようなものをあてがわれて……そして、そこから今、目覚めるまでの記憶がなかった。
間違いなく……ビアンカはこの男に、拉致されたのだ。
「……一体、何が目的なの? ここはどこ?」
努めて冷静に尋ねると、男が感心したように目を細めた。
「ほう……さすが、あの鴉に嫁いだけあるな。そこらの女よりも、よっぽど肝が座ってる」
褒められても嬉しくない。
王女という立場柄、幼い頃から身の回りには危険がまとわり付いていた。
だからそれなりの覚悟があっただけ。いつ、どこで命を狙われるかわからない。
誘拐や拉致、監禁など、最悪の場合殺されるかもしれないというのは……あまり、考えたくはなかったけれど。
「だが、さすがに目的は言えねぇなぁ。ここがどこなのかも、教えてやる義理はない」
面白そうに口元を歪めた男は、ビアンカの質問に答える気はないらしい。