騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「アンナ? どうしたの?」
「い、いえ……。ええ、と、そうですね……。ルーカス様は、それはもう……ビアンカ様が幼い頃にお会いした時と同様、優し──いえ、ご立派になられていると聞いております」
「そう……それなら良かった」
アンナの言葉に改めて安堵の笑みを零したビアンカは、自分の両手のひらを静かに見つめた。
(ここまできたら、覚悟を決めるしかないわよね……)
今回の政略結婚はあまりにも突然に、舞い込んできた話だった。
婚礼の準備をするまでにも、一週間しか時間がないほどで……。
早急に話が進みすぎて、ビアンカは自分の結婚相手がセントリューズ国王の王弟であること。
そして、その王弟が十七である自分よりも五つ上の歳であるということ以外を知らされていなかった。
多忙なスケジュールの中、父であるノーザンブル国王に相手がどんな男かを尋ねてもはぐらかされるばかり。
アンナはアンナで、国王が受けた相手であるから大丈夫だと一点張りで、ビアンカに相手の情報を聞き出すチャンスを与えなかった。
それでも、ビアンカがこの結婚を断らなかった理由がある。
『一刻の猶予も許されないのだ。ビアンカ、国のためにセントリューズの花嫁となってくれ』
もちろん一つは、これが大切な政略結婚であること。
そしてもう一つは── 幼い日の淡い記憶のためだった。