騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「わ……っ」
辿り着いたのは、時計塔の中にある小さな部屋だった。
約二十平方メートルほどの大きさの部屋はレンガ造りであった外観に等しく、アンティーク調に纏められており、どこか風情を感じさせる。
天井までの高さの本棚、ステンドグラスが装飾された小窓。その真ん中に木のデスクが置いてあり、上には書類が並んでいた。
「ここは、俺の仕事部屋だ」
──ルーカスの、仕事部屋。つまりジェドが言っていた、騎士団長の執務室ということか。
開け放たれた窓からはセントリューズの街が一望でき、空を数羽の鳩が泳いでいた。ビアンカはその窓に近付こうと、一歩、前に出る。
けれどすぐに手を引かれ、ルーカスの腕の中へと呆気無く引き戻されてしまった。
「……逃がすか」
「……っ」
耳元で、艶のある掠れた声で囁かれ、ビアンカの身体はビクリと揺れた。
後ろから自分を抱き締める腕は熱く、力強くて……。昨夜も抱きしめ合って眠ったというのに、たった一日では少しも慣れそうにない。
「ル、ルーカス……?」
「お前は……危なっかしい。なんのために、ジェドをつけたと思っているんだ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝って済むなら、俺たち騎士団はいらないだろう。俺が来なかったら、どうするつもりだったんだ」
そう言われてしまうと、ビアンカは返す言葉がなくなってしまう。
今、言われているのが先程の、王太后たちとのやりとりのことだと気付かないほど、ビアンカはバカではなかった。
確かに、あの行動は軽率だった。もしも自分の身分が今よりも更に低ければ、その場で手打ちにされてもおかしくない。