騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「ジェド。お前は通常業務に戻れ。昨日捕らえた山賊の尋問も、まだ残っている」
「は、はい!!」
淡々と、それだけをジェドに言付けたルーカスは、ビアンカの腕を引いて歩きだした。
きらびやかな回廊を抜け、礼拝堂の前を通り、どこかへと真っ直ぐに向かうルーカス。
二人は足のコンパスの長さが違う。さっさと歩くルーカスを、ビアンカは覚束ない足取りで必死に追いかけた。
「……っ、ひゃあっ」
そうしてしばらく歩いたのち、ルーカスが足を止めたのは離れの時計塔の扉の前だった。
急にルーカスが足を止めたせいで、彼の背中に鼻をぶつけたビアンカは、痛さで思わず小さく唸る。
「ル、ルーヒャス……」
「あれ? 団長?」
「今、昨日捕らえた山賊のところへと行くと、言ったばかりじゃ……」
「ウルサイ」
突然現れたビアンカとルーカスに、周りにいた数人の騎士団員たちが驚いたように目を見開いていた。
けれど、それをウルサイという一言で一蹴したルーカスは、それ以上何を言うでもなく目の前の扉に手を掛ける。
二人を取り囲む男の中には上半身裸で首にタオルを巻いているものもいて、ビアンカは痛む鼻を押さえたまま、目のやり場に困ってしまった。
「行くぞ」
「え……あっ」
そんなビアンカの思いなど、ルーカスはなんのそのだ。
再びビアンカの腕を強く引くと、時計塔の中へと入り、螺旋階段を上っていった。