強引社長といきなり政略結婚!?

◇◇◇

「汐里さん、さっきからちょいちょいカレンダーを睨んでません? なにか気になる広告なんですか?」


お客さんへエビグラタンを届けて戻ったゆかりちゃんが、カレンダーと私の顔の間に何度も視線を行き来させる。
壁にかけられたカレンダーは、木陰に出入りしている肉の問屋からもらったものだ。一番下に【谷口畜産】と書かれている。


「な、なにもないよ」


別にその広告が気になるわけじゃない。それに睨んでいるつもりもない。


「そうですか? やけにカレンダーを気にしてるみたいに見えたので」

「そんなことないよ。全然気になんてしてない」


そう否定したものの、なんとなく唇が震える。
田辺さんが「はい、ナポリタンあがったよ」とタイミングよく言ってくれたものだから、逃げるようにしてお客さんへと運んだ。

このごろの私は、どこかおかしい。
カレンダーを眺めては、“あと五日”“あと四日”なんてカウントダウンをしているのだ。

朝比奈さんに会う日を指折り数えるなんて、私は本当にどうしちゃったんだろう。
こんなふうにしてなにかを待つのは、遠足や修学旅行以来の気がする。その日のことを考えるだけで心が弾むときているからたまらない。

そんな自分をどう処理したらいいのかわからなくて、ひたすら嵐が去るのを待つようにじっとしているしかなかった。

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