強引社長といきなり政略結婚!?
真紀さんが出ていくと、朝比奈さんは部屋の明かりを落とした。
私の隣に座り、リモコンの再生ボタンを押す。ごく自然に、彼は私の手を取った。
自分の膝の上につないだ手を乗せ、指を絡める。それがあまりにも自然な流れだったものだから、振り払うタイミングを逃してしまった。というよりも、振り払いたい気持ちすら起きなかった。
製作会社の見慣れたマークが現れて、数秒で消えていく。オープニングの軽やかな音楽が流れ始め、主人公の男の子が登場する。
数えきれないくらい何度も観た、大好きな映画が始まったのに、どうしてもそちらに意識を向けられない。
画面を見ているのに、完全にうわの空。つながれた手にばかり神経が集中してしまう。
この映画なら、どんなセリフもどんなシーンも諳んじられるほどなのに、すべてが頭の中から飛んでいってしまった感覚だった。
思考がストップしたまま、胸の鼓動だけがリズミカルに動く。
心と体がこんな状態で“T・E”を観ることになるとは思いもしなかった。
映画のいっさいが頭に入ってこないまま、いよいよエンドロールを迎える。何度聴いても胸が震えるエンディングテーマが、今夜は感動じゃなく、鼓動の高鳴りを後押しするような感覚だった。
朝比奈さんを横目で盗み見る。
――え!? 泣いてるの!?
彼の頬を確かに涙が伝っている。