強引社長といきなり政略結婚!?
◇◇◇
「汐里様、お客様がお見えになっているのですが……」
多恵さんが不安そうな顔で私の部屋のドアから顔を覗かせたのは、その夜のことだった。その様子からすると一成さんではないだろう。多恵さんは浩輔くんの顔も知っているから、彼でもない。
となると、いったい誰だろう。
まさか、またおじい様だったりしないよね……?
ひやりとしたものが背筋を伝う。
「なんでも、朝比奈様の秘書の方だそうで……」
「日下部さん?」
なんだ、日下部さんだったのか。
瞬間的に力んだ肩が、フッと緩む。
「はい、そうおっしゃっていました。大丈夫でございますか? なんだかとても厳しそうなお方で、この辺に黒ペンで“川”と書いたような険しいお顔をされていましたものですから」
そう言いながら眉間を指差して、多恵さんが彼の顔を真似るようにするから、思わず噴き出してしまった。