強引社長といきなり政略結婚!?
「心配で仕方がないという顔ですね」
「そんなことはありません。彼を信じていますから」
私の未来も懸かっているのだから、心配じゃないといったら嘘になる。でも、私が弱気になるわけにはいかない。なんとかすると言ってくれた一成さんを信じ続けなくては。
日下部さんの目に軽く笑みが浮かんだように見えた。
彼が玄関のドアを閉めると同時に、多恵さんが私のうしろで長く息を吐く気配がした。
「汐里様は勇猛果敢でございますね」
「なにそれ」
それじゃまるで、私が猛獣とやり合ったみたいだ。
人を怯ませるという点では、日下部さんも猛獣と同等かもしれないけれど。ただ、口よりも目のほうが凶器だ。噛みつくのじゃなく、突き刺すというほうが適当な表現かもしれない。
こんなことを私が思ったと日下部さんが知ったら、きっとまた鋭利な視線で睨まれるだろう。
「それにしても汐里様ときたら、お脱ぎになった洋服をお忘れになるなんて。よほどお急ぎだったのか、朝比奈様に夢中になりすぎたのか」
「もう、からかわないでよ」
多恵さんがクスクス笑う。ついさっきまで日下部さんに恐れおののいていたのに。
「昨夜はいろいろあったの」
「はい。“いろいろ”でございますね」
多恵さんが含ませたように言うから、思い返して顔が熱くなった。