強引社長といきなり政略結婚!?

「汐里様、絶対に負けないでくださいませ」


そう言いながら多恵さんお手製のお守りを私の手に握らせ、玄関で私を見送る。

七時きっかりに玄関のドアを開けると、ちょうど日下部さんの運転する車が到着したところだった。
黒い長袖のTシャツにビタミンカラーのポロシャツ、真っ白なパンツに身を包んだ日下部さんが運転席から降り立ち、私のゴルフバッグをトランクへと積み込む。
てっきりおじい様と綾香さんも一緒かと思いきや、あちらは別の車で向かうそうだ。


「日下部さん、今日はお仕事じゃないんですか?」

「会長命令で、対決の見届け人です」


走り出した車の中、ハンドルを握る日下部さんはチラッとだけ助手席に座る私を横目で見た。不服がありそうだ。眉根が寄っている。


「ごめんなさい」


謝らずにはいられない。


「本当ですよ。負けのわかっている勝負に挑むというのですから、あなたという人が本当にわかりません」


日下部さんの淡々とした口調が耳に突き刺さる。
でも、口ごたえをして、日下部さんの機嫌をこれ以上損ねたくはない。今は、私の大事な運転手という役目も担ってくれているから。日下部さんのハンドルさばきひとつで、目的地と違う場所へ連れて行かれないとも限らない。
黙って助手席で小さくなった。

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