強引社長といきなり政略結婚!?
そうはいかない。父の運転手の黒木さんに、これ以上手間をかけさせたくないのだ。
「本当に大丈夫だから」
バッグをカゴに突っ込み、濡れたサドルにまたがろうとした時だった。ワープでもしたかのような速さで、浩輔くんが私のバッグを奪い取る。
「――ちょっと!」
瞬きの間の出来事だった。
しかも二度目だ。私ときたら、なんて間抜けなのか。油断しすぎもいいところ。
「返して!」
自転車のスタンドを立てかけ、浩輔くんの車に走り寄る。
「送って行くって言ってるんだから乗りなよ」
たった今見せた超特急の動きが幻だったかのように、浩輔くんは雨の中、悠然と運転席へと戻った。私のバッグを持ち上げて、『これ、いらないの?』とでもいう仕草をつけて。
その中にはスマホが入っている。