強引社長といきなり政略結婚!?
自分から進んで自己紹介すべきかどうか迷ってしまう。
私たちの間にはっきりとした名前の関係はない。それなのに戸惑う私の横で、朝比奈さんはあっけらかんと「婚約者の藤沢汐里さんだ」と私を紹介してしまった。
その言葉で、中にいた数人の人たちが私を一斉に見る。目は好奇に満ちていた。
“あれで社長の婚約者?”というものなのか、好意的なものなのかは私にはわからない。
心の中で『ちょっと待ってよ!』と叫ぶものの、従業員の前で彼に恥をかかせるのもどうかと思われて、ひとまず軽く頭を下げておいた。
私の目が泳いだことには、たぶん気づかれていないだろう。
「チャーリーとリンダは?」
「宿舎にいます。お乗りになりますか?」
「ああ。頼む」
朝比奈さんは小さい声で「行くよ」と私に声をかけ、外へ出た。
すぐ隣の宿舎には、つながれた馬が十頭近くいる。男性従業員のあとについて行くと、白と黒の二頭が急に鼻を鳴らし始めた。
どうやら朝比奈さんを見て喜んでいるようだ。
「チャーリー! リンダ!」