強引社長といきなり政略結婚!?
密かにスピードを上げた心拍数をなんとか鎮静化した。
ニッという笑みを浮かべた朝比奈さんの視線が、ふと私から逸れる。
「現実からの使者だ」
彼の顔が少し曇る。
なんのことかとその目線の先を辿っていくと、馬に乗った人がこちらに近づいてくるところだった。さっきのスタッフだ。
「社長、日下部さんからお電話です」
手綱を引いて私たちの前で止まると、彼が朝比奈さんにそう告げる。
朝比奈さんは手で顔をひと撫でして、「見つかったか」と大きく息を吐いた。
携帯やスマホがあるだろうに。どうしてわざわざここまで馬を走らせて伝えにくるんだろう。
私が不思議そうにしていることに気づいたのか、朝比奈さんは「ここ、電波状態が悪いんだ。スマホが通じない」と教えてくれた。
それで、日下部さんはここの事務室に電話をかけたのか。
……でも、どうしてここにいることがわかったんだろう。
さらなる疑問に首を傾げる。
「スマホが通じない時は、ここだろうと見当をつけてるんだよ、日下部は」