狼社長の溺愛から逃げられません!
もう一軒行こうという古賀さんの誘いを断わり、家へ帰ることにした。
古賀さんといても社長のことばかり考えてしまって上の空になってしまうから。
耳元に残る社長の甘い声を何度も思い出し、思わず緩みそうになる顔をしかめながら早足で駅へと向かう。
人の行き交う駅の中で改札を通ろうとしていると、反対側から歩いてきた男の人がじっとこちらを見ていた。
三十代くらいの、背が高い黒縁の眼鏡をかけた男の人。
誰だろう。
見覚えはないけど、仕事関係の人かな。
そう思いながら小さく会釈をしてすれ違おうとすると、その人が私の前で足を止めた。
「もしかして、シネマボックスの社員の人?」
そう問われ、やっぱり仕事で会った人なのかと私も足を止める。
はい、とうなずく前にその人は話し始めた。
「この前、試写会で『ルイーズ』見たよ。そのとき踊ってたのあんただろ」
「ええと……」
戸惑いながらうなずく。
この前の試写会イベントはあくまで女性誌の読者限定だったから、男の人は取材に来てくれたマスコミの人か雑誌の関係者くらいしか来ていなかったはずだ。