狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「なんでそのことをずっと黙ってたんだよ。なにも知らずにお前を恨み続ける俺を笑ってたのかよ」

音をたててアルミの缶は簡単につぶれる。その缶を持った手が、微かに震えていた。

「お前が聞かなかったからだろ」

その手を見ながら社長が静かな声で言う。

「お前に聞かれれば、恋人のふりをしていたこともスキャンダルで騒ぎになった真相も俺はちゃんと話すつもりだった。聞かれなかったから言わなかった。それだけだ」

その言葉に小笠原さんは顔を上げ、こちらを見る。

「そんなことかよ……」


ぽつりとつぶやいて、大きなため息をついた。


たとえば小笠原さんが自分の気持ちを素直に紗英さんに伝えていたら。スキャンダルのことを直接社長に文句を言って問いただしていたら。
こんなに長い間嫉妬とコンプレックスに悩まされずにすんだんだと思う。

だけど、大人になればなるほど、素直に人に気持ちを伝えるのはむずかしい。
うつむいた小笠原さんを見て、そう思った。




 


< 222 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop