熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
仕掛けられる濃厚なキスに、思考を全部引き摺り込まれそうになる。
だけど私は、必死に首を横に振った。


「ダ、ダメ。優月……!」

「なんだよ。『イイ』って顔してるくせに」

「そうじゃなくてっ! 私、まだ日本に帰れないよ」

「……え?」


優月の手が止まった。
彼が私の横顔を見つめているのを感じながら、私もそっと視線を流した。


「帰ったら結婚する。きっと仕事も辞めることになる。だったらこのまま帰っても……は、ダメ」

「綾乃」

「一度始めたことは、ちゃんと最後までやり通す。こんな中途半端で日本に帰ったりしたら、今まで良くしてくれた課長とか室長とか、マリーさんやスティーブさんにも顔向けできない」


そう言って、私は優月の髪をそっと撫でた。
サラッとした焦げ茶色の髪は、こうして触ると割と柔らかい。


「あと十ヵ月だもん。きっとあっという間だよ。だから優月、最後まで頑張らせて」


優月が見つめていることを意識しながら、私はニッコリと微笑んでみせた。
優月はわずかの間沈黙して、小さな溜め息をつきながら、そっと身体を起こした。


「……そうだな。悪かった」


ガシガシと髪を掻き乱しながら、優月は私の横に背を向けて転がった。


「優月?」


怒らせてしまったのかと戸惑いながら、私は彼の背中にそっと触れた。


「お前の言う通り。……そんなに強い意志で言われちゃ、社長の俺にも無理強いできない」
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