熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
「綾乃。いいから戻るぞ。この後外出の予定があるだろ」

「あっ」


シレッと指摘されて、私は慌てて左手首の時計に視線を落とした。
ほんの十分のつもりだったのに、気付けば思いの外時間が経ってしまっていた。


「ご、ごめんなさい!」

「一度社長室戻るぞ。進藤、お前もさっさと仕事に戻れ。油売ってる時間が長くなるようなら、給料一割カットするよう、人事に言いつけておく」

「ぐっ……なんて横暴な」


優月がサラッと言いのけた『給料一割カット』という言葉に反応したのは、進藤さんだけではない。
社長である優月に気付き、私たちを取り巻いていた他の社員たちもギクッと身体を強張らせ、いそいそとアトリウムを後にしていく。
それを横目で見て、進藤さんがわずかに苦笑した。


「心配しなくても、社長がお前らの名前も所属も知ってるはずないだろうが……」

「お前には容赦なくやるぞ、進藤。……ああ、それから。その頬の痣、あまり引かないようだったら治療費くらい払ってやる。遠慮なく請求してこい」


優月は太々しくそう言いのけて、私の腕を引っ張って歩き始めた。


「……まあ、これはおあいこだろ」


進藤さんの小さな返事が耳に届いて、優月にグイグイ引っ張られながら、私は少しだけ振り返った。
進藤さんは私の視線に気付き、『Good Luck!』とでも言うように、指を二本立てて眉尻近くに掲げていた。
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