月華の陰陽師1ー朧咲夜、裏の真相ー【完】
「涙雨は死にかけを保護したんだ。治ったら自然に還るかなーって思ってたんだけど、陰陽師ってのが面白かったらしくて、自分から式になりたいって言って来た」
「お前はほんと、式に好かれる主だな」
それは黒の数少ない美点だ。
自分の式を配下として見ない、自分と同列に扱う主だ。
「だって、あいつらがいるおかげで俺、独りじゃないからな」
「………」
黒の母君、紅緒様は十六年前に眠りにつかれて以来、いつ目覚めるとも知れない。
黒は生まれが少し厄介で、小路内部では扱いに困られている。
いわゆる腫れもの扱い、といやつだ。
黒の陰陽師としての強さは、御門流の人間も認めるもの。
当代最強の名で呼ぶのは、小路流や御門流だけではない。
小規模な他流派でもその名で通るくらいだ。
「そうだ。今度、今いる庵(いおり)に来ないか? 涙雨のこと紹介したいし、縁も逢いたがってるからさ。百合姫にも」