樫の木の恋(中)
謝るだけの用件な訳がない。そう秀吉殿も思っていたのだろう、立ち上がろうとはせず、柴田殿の顔を見ていた。
「ふっ。他にも用があると分かっておるのだな。」
「そりゃそうでしょう?謝るだけでしたら、先程の顔見せの際にも出来たはず。」
「まぁな。」
秀吉殿は腕を組み、真面目な顔をして早く話すよう促している。
それでも柴田殿はまだ言うかどうかを決めかねているようで、なかなか話始めようとはしなかった。
「柴田殿、話されないのでしたら帰りますが…。」
「いや…、なぁ秀吉。」
帰ろうとする秀吉殿を引き止め、意を決したように柴田殿が名前を呼ぶ。
「なぁ。お主、大殿に何をした?」
「おや、この間以前付き合っていたと言いましたよね?しかしもうそういう関係ではないと。」
「ああ、聞いた。わしが聞きたいのはそういうことではない。」
「では、何を?」
本当に訳がわからないのだろう。秀吉殿は首を傾げ、ちらっとこちらを向いて分かるかと目で聞いてくる。
それがしも分からないと首を振ると、秀吉殿は目を伏せながら柴田殿の方へと向く。