樫の木の恋(中)
「……さぁ?」
真面目な声音の柴田殿にたいして、皆秀吉殿が真面目に答えてくれるものだと思っていた。
しかし返ってきたのは短く適当な返答だった。
「さぁって、お主なぁ。真面目に答えてくれんか。」
苛立ちを見せながら柴田殿は秀吉殿を更に問い詰める。
「真面目に答えたところでどうするのです?それがしがもし大殿を捨てたとして、どうなさるのです?」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべる秀吉殿。あくまでも真面目になど答えないという意思表示なのだろう。
「大殿が秀吉を追放をしていないところを見ると、円満に別れは解決したのだろう。しかし大殿は秀吉に心を寄せている。大方、大殿が自ら身をひいたのだろうな。」
「なんだ、分かっているではありませんか。」
佐々殿はなかなかに苛立っていた。元々このお方は秀吉殿の事を良く思っていない。自分よりも後から入ったのに、大殿にいたく気に入られ今や国主にまで登り詰めた秀吉殿に嫉妬しているのだ。
今、余裕な顔で柴田殿と対等に話している秀吉殿に良い気はしないのだろう。
「なぁ、秀吉。なぜ、大殿は別れた今でもお主を可愛がる?何故大殿のものにならなかったお主をそれほどまでに優遇されている?何故……そんなにも大殿はお主のようなものに心を寄せる?」
吐き出すように柴田殿が一気に言うと、秀吉殿はとぼけたように頭を捻った。
「さぁ、人の心は分からんもんですからねぇ。」