樫の木の恋(中)


秀吉殿の返答についに柴田殿が切れた。
さっと立ち上り、秀吉殿の胸倉を絞り上げ立たせる。柴田殿は怪力の持ち主だ。
片手で軽い秀吉殿を持ち上げるなど訳ない。

「……真面目に答えろと言ったはずだ。」

柴田殿が秀吉殿に顔を近づけ凄む。

「おやおや、滝川殿の件を謝った舌の根も乾かぬうちに、次は柴田殿ですかい?野蛮ですなぁ。」

柴田殿に胸倉を捕まれたくらいで、秀吉殿はなんにも動じていなかった。むしろふてぶてしいほど。
きっと今動けば秀吉殿の怒りを買う。
大人しくいつでも刀を抜けるようにしながら見ていた。

「秀吉…自らの出世のために大殿をたぶらかしたのか?そして好きな男が出来たからと捨てたのか?」

「ふふっ、だとしたら?なんです?斬っときます?あぁでもそーんな事したら、大殿が悲しんじゃうかぁ。大好きな秀吉が死んでしまっては、ねぇ?あはははっ!」

「き、さま…!」

もう、なんであの人はそのように挑発するのだろう。絶対に楽しんでいるだけだ。
一度怪我の件で柴田殿の方は大殿に咎められている。しかし二度目となると、さすがに秀吉殿も咎められるだろう。

だが、そうまでしても大殿と秀吉殿の二人だけの事を話したくないのだろう。胸の内にしまっておきたいのだろう。大事な思い出だから。
それを利用されることを秀吉殿は恐れているのだ。

柴田殿の顔が歪み、憎々しげに秀吉殿を見ている。

< 170 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop