樫の木の恋(中)
佐々殿は動こうとしていた。
滝川殿はこの間の件があるため、動くのを耐えていたが、佐々殿は我慢ならないようだった。
しかし柴田殿がそれに気づき、目で諫める。
また再び秀吉殿に頭を下げるというのをさせたくないのだろう。
「お主を斬っては大殿に切腹させられてしまうだろう。」
「まぁ柴田殿曰く、この秀吉めを愛しておられるようですからなぁ。」
言い方…。
本当にこのお方は挑発が上手だ。
「………しかし女子だがお主も武士じゃ。此度の戦で半兵衛共々討ち死にしたとなったら、仕方あるまい?」
「あはは!戦に乗じて殺してしまおうと?それ、打ち明けてしまって良いのです?打ち明けては、失敗してしまうのでは?」
柴田殿の思いもよらぬ発言に、それでも秀吉殿は態度を変えなかった。
「ああそれとも、そんなのでそれがしを脅そうと?いやはや柴田殿はご冗談がお上手なようで。」
「冗談ではないとしたら。」
「ふふっ、よもや柴田殿はそれがしと半兵衛の刀の腕を知らぬわけではありますまい。何人寄越したところで勝算などほとんどありませんでしょう。」
「……。」
それがしも一応塚原卜伝の免許を皆伝しているのは、既に周知の事実。秀吉殿も何度も皆の前で己の腕を誇示してきている。
こういうときのために示してきたのだろう。
今、それが活きている。