樫の木の恋(中)
ガンッ!
肩を掴み壁に秀吉殿を押し付ける。秀吉殿の言葉にカッとなった。
秀吉殿は冷たくこちらを見るだけで、恐怖も動揺も見受けられない。
「それがしは…!そんな事のために秀吉殿とした訳ではないのですよ!?たぶらかしをさせるために、秀吉殿と体の関係を持ったのではないのです!」
「そんなことは分かっておるぞ?主な理由としては愛し合ったからじゃが、付属としてそういう考えを持っては悪いのかの?」
その言葉にさらに頭がカッとなる。
「秀吉殿は、本当にそれがしを愛しているのですか…?何故付属として邪な考えを持てるのです?」
そう言うと秀吉殿は苦笑いをしながらため息をついた。
わがままを言う子供を見るかのようなその目。それがしの思いが伝わっていないのだと感じた。
「半兵衛…お主は存外わがままじゃのぉ。愛し方まで求めるのか?そのように潔癖のような愛し方がお主の愛し方なのやもしれんが、わしにまでそれを押し付けるでない。人それぞれじゃよ。」
秀吉殿の肩に置かれたままのそれがしの手をゆっくり片方ずつ秀吉殿は剥がしていく。
「少し前まではお主に近い考え方をしていたが、まぁわしらもいい大人じゃ。そんないつまでも少年のような理想形のような愛など、してる暇などない。わしは織田家の人間じゃ、使えるものは使うさ。己の愛だって使う。」
そう言って秀吉殿は部屋から出ていった。
少し前までいた、それがしの愛していた秀吉殿は影も形もなくどこかに行ってしまったようだった。
いや、ずっとそれがしが見ていないだけだったのか?
それともそれがしはずっと騙されていたのか?
いや…どちらかと言うと、目覚めさせてしまったのか。
秀吉殿の中にずっとあった性を。
恐らく恋も己の体も道具としてしか使ってこなかったのだ。
それでしか生きてこられなかった、そんな中で培われていった彼女の本性を。
ただその場に茫然と立ち尽くし、懸命に己が愛した秀吉殿を思いだそうとしていた。