恋蛍2
藁にもすがる思いで無我夢中で電話を掛けてから、確か……10分くらいだったと思う。
いつでもその場でお産ができるようにと、医療器具が詰まった重そうなバッグを準備し、汗だくになりながら駆け付けてくれたのが、葵先生と美波姉ェネェだった。
「葵先生! 助けてください! 母さんが……母さんがっ」
完全にパニックに陥り、涙と汗と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていたオレは、玄関に飛び込んできた葵先生にしがみついた。
「母さん、大丈夫かね? 赤ちゃん、ちゃんと生まれて来てくれるかね? 助けて! 葵先生!」
不安のあまり最悪な想像ばかりが頭をよぎり、ガタガタと震えるオレの両腕を、葵先生はがっしりと強い力でつかまえた。そして、射抜くような真剣な目でオレを正面から見据えた。
「なんくるない! 結弦がそんなんでどうするのさ!」
ピシャリと言い放った葵先生の声は、不思議なほど安心感があって、オレの震えを止めた。
「結弦は今日から、世界でたった一人の兄ィニィになるんだし! しっかりしなさい!」
その瞬間、オレの目に映る葵先生は、スーパーマンに見えた。
「あんたはもう……結弦はもう、兄ィニィなんだよ!」
「……はい!」
あの時の葵先生は言葉では言い表せないほどにかっこよかった。絶望の淵にいたオレを救いに来てくれた正義の味方だった。
それから時間にして5、6時間ほど経った頃だったと思う。
外がすっかり夜の闇に包まれた21時過ぎ、シン、と静まり返っていた家の中に「にゃー」とまるで生まれたての子猫みたいな可愛い産声が響き渡った。出産予定日よりも2週間も早く、翔琉は産まれた。
「陽妃さん、おめでとう。見て、元気な可愛い男の子さぁ」
ふわふわの清潔な白いタオルにくるまれた翔琉を、葵先生が母さんの胸元へそっと優しく抱かせた。その瞬間、母さんは大粒の涙をぽろぽろとこぼして、見たこともないくらい幸せそうに笑った。
結弦にそっくり、そう言って。
「さあ、次は結弦兄ィニィの番だね」
そう言って、葵先生は母さんの胸元からそっと翔琉を抱き上げると、オレに向かってにっと白い歯を見せて笑った。
「えっ! オレも抱っこしていいの?」
「当たり前さあ。結弦はこの子の、たった一人の兄ィニィなんだからさ」
と、葵先生は生まれたてほやほやの、ほんのりと赤みがかった宇宙人みたいな小さな翔琉を、オレの腕の中へ壊れ物を扱うようにそっと抱かせてくれた。
「うーわあーっ……ちいさいー……」
まだ目も開けれん翔琉からは、ミルクみたいな甘くて優しい香りがした。腕の中に伝わってくる驚くほどの軽さと、トクトクと小さく、でも力強く打つ心音の温かさ。
翔琉は小さな口をほわっとまあるく開けて、たぶんあれはおそらく、あくびをしたんだと思う。腕の中で翔琉がもぞもぞと小さく動いて、小さな手で顔を不器用に掻く動きをした時、その小指の驚愕の細さに思わず心の声がだだもれた。
「かわいいー……」
愛おしさが一気に爆発したオレが翔琉を見つめて固まっていると、葵先生はオレの頭をわしゃわしゃと力強く撫で回した。それからオレの目を目を真っ直ぐに見つめて、静かにゆっくりと重みのある声で言った。
いつでもその場でお産ができるようにと、医療器具が詰まった重そうなバッグを準備し、汗だくになりながら駆け付けてくれたのが、葵先生と美波姉ェネェだった。
「葵先生! 助けてください! 母さんが……母さんがっ」
完全にパニックに陥り、涙と汗と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていたオレは、玄関に飛び込んできた葵先生にしがみついた。
「母さん、大丈夫かね? 赤ちゃん、ちゃんと生まれて来てくれるかね? 助けて! 葵先生!」
不安のあまり最悪な想像ばかりが頭をよぎり、ガタガタと震えるオレの両腕を、葵先生はがっしりと強い力でつかまえた。そして、射抜くような真剣な目でオレを正面から見据えた。
「なんくるない! 結弦がそんなんでどうするのさ!」
ピシャリと言い放った葵先生の声は、不思議なほど安心感があって、オレの震えを止めた。
「結弦は今日から、世界でたった一人の兄ィニィになるんだし! しっかりしなさい!」
その瞬間、オレの目に映る葵先生は、スーパーマンに見えた。
「あんたはもう……結弦はもう、兄ィニィなんだよ!」
「……はい!」
あの時の葵先生は言葉では言い表せないほどにかっこよかった。絶望の淵にいたオレを救いに来てくれた正義の味方だった。
それから時間にして5、6時間ほど経った頃だったと思う。
外がすっかり夜の闇に包まれた21時過ぎ、シン、と静まり返っていた家の中に「にゃー」とまるで生まれたての子猫みたいな可愛い産声が響き渡った。出産予定日よりも2週間も早く、翔琉は産まれた。
「陽妃さん、おめでとう。見て、元気な可愛い男の子さぁ」
ふわふわの清潔な白いタオルにくるまれた翔琉を、葵先生が母さんの胸元へそっと優しく抱かせた。その瞬間、母さんは大粒の涙をぽろぽろとこぼして、見たこともないくらい幸せそうに笑った。
結弦にそっくり、そう言って。
「さあ、次は結弦兄ィニィの番だね」
そう言って、葵先生は母さんの胸元からそっと翔琉を抱き上げると、オレに向かってにっと白い歯を見せて笑った。
「えっ! オレも抱っこしていいの?」
「当たり前さあ。結弦はこの子の、たった一人の兄ィニィなんだからさ」
と、葵先生は生まれたてほやほやの、ほんのりと赤みがかった宇宙人みたいな小さな翔琉を、オレの腕の中へ壊れ物を扱うようにそっと抱かせてくれた。
「うーわあーっ……ちいさいー……」
まだ目も開けれん翔琉からは、ミルクみたいな甘くて優しい香りがした。腕の中に伝わってくる驚くほどの軽さと、トクトクと小さく、でも力強く打つ心音の温かさ。
翔琉は小さな口をほわっとまあるく開けて、たぶんあれはおそらく、あくびをしたんだと思う。腕の中で翔琉がもぞもぞと小さく動いて、小さな手で顔を不器用に掻く動きをした時、その小指の驚愕の細さに思わず心の声がだだもれた。
「かわいいー……」
愛おしさが一気に爆発したオレが翔琉を見つめて固まっていると、葵先生はオレの頭をわしゃわしゃと力強く撫で回した。それからオレの目を目を真っ直ぐに見つめて、静かにゆっくりと重みのある声で言った。