恋蛍2
一昨日から台風の影響でフェリーが運休していたため、島に逗留しておる観光客の御世話と、今日から滞在する観光客の御世話が重なって、民宿の人手が足りないらしい。


「お父さん、診療所が心配だからって泊まり込んでるでしょ。持って行ったカップラーメンしか食べてないみたいなの」


父さんはこの島の診療所の院長先生だ。
島唯一の診療所は浜の近くにある。
築20年になる診療所は一見綺麗だけど、例年の台風や塩害であちこちガタがきておるのが現実だ。


台風が来るたびに「診療所が心配だから」「急患が出るかもしれんから」と、父さんは大量のカップラーメンと共に診療所に泊まり込むのだ。


「お父さんだけじゃないよ。美波ちゃんもケイちゃんも、葵ちゃんも。みんな一緒に泊まり込んでくれてるんだから」


カップラーメンだけじゃねぇ……と母さんはため息交じりに心配そうな口調で続けた。


「今ごろお腹空かせてるだろうなあ。ああ、特に美波ちゃんなんて、食いしん坊だから」


美波姉ェネェは父さんの妹で、診療所で看護師をしよる。
ケイちゃんも看護師さんで、美波姉ェネェとは大学時代からの親友らしい。
葵先生は父さんの幼なじみで、診療所の副院長先生だ。
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