守神様の想い人
『本当はちゃんと決まってから、みんなに報告して、お許しをもらおうと思ってたんだけど………。サァラに私の妻になってくれるように申し込んだんだ。』

「えーっ!!」

リジュアが口元を押さえて叫んだ。

大きな声を諭すように、ミアが渋い顔をしてリジュアの方を見た。

『だけど、サァラがどうしても………、』

黙りこむ守神様。

「オッケーしない………、ってことですか?」

今にも崩れてしまいそうに座り言いよどむ守神様に、ガイルが確認するように尋ねると、守神様は首をがくりと落としながらうなづいた。

「ええっ!?」

とたんに、今度はミアが声をあげた。

ミアが(あっ!)という顔をすると同時にリジュアが眉を上げながらチラリと見た。

ガイルは腕をくんで考え込みながら、さっきから黙って聞いているサァラにたずねる。

「どうしてだ?サァラ?」

サァラは少しうつむき加減に視線を合わさず黙っている。

ガイルがリジュアに目配せすると、リジュアは目だけでうなづいて、サァラの肩に手をおいた。

「サァラ………、ちょっと向こうに行こうか?」

それを聞いた守神様は、

『こっちの部屋を使ってくれればいいよ。』

そう言いながら、チラリとサァラの様子をうかがった。

サァラは目を臥せ気味にうつむいたまま、リジュアに引かれて奥の部屋に消えていった。

『みんなが帰ってから、すぐに元気になったんだよ。だけど………、私の妻になってほしいって言ったら………、ああ、私の妻になることがどういうことか、先に説明しないといけない………。』

「俺達の結婚とは違うんですか?」

ガイルが真剣な面持ちで尋ねると、ミアも守神様を見つめた。

『私たちが人と結ばれるときは契りを交わして夫婦になるんだけど、その契りを結ぶことで、人も私たちと同じ時間を生きるようになるんだ。』

「同じ時間を?」

ガイルが眉根を寄せて、首をひねる。

『そう。永遠に生きて、人としての生まれかわりを繰り返さなくなるんだ。』

ガイルもミアも納得したようにうなづいた。

「なるほど………。それなら、ずっと一緒にいることができますね。」

『うん。………だけど、サァラは………それは嫌だって………。無理に契ってもサァラが幸せにならないなら、する意味がない。』

ガイルとミアは困ったように顔を見合わせた。



「サァラ、もう体は大丈夫?」

リジュアが長椅子に腰かけて、横に座ったサァラに優しく尋ねた。

「うん。もう、すっかり………。」

「よかった。」

サァラの様子をうかがうように見つめるリジュアに、不意にサァラが目線をぶつけた。

「リジュア、私………、リジュア達と村へ帰る。」

「え?」

リジュアはポカンとした顔でサァラを見つめ返した。

「なっ、どうしてよ?サァラ、記憶をなくしても苦しむほど、守神様を………、」

言いかけたリジュアから視線を反らしてサァラは立ちあがり、窓辺から見える闇をのぞいた。

話すのをとめて、サァラが何か言うのをリジュアは待った。

長い沈黙にリジュアがまた話そうとした、その時、サァラが口を開いた。

「私が守神様と結ばれてしまったら、もうリジュアやお母さんと暮らすことがなくなってしまう………、それが………嫌なの………。」

振り向かずに話すサァラの後ろ姿を見ていたリジュアは、水鏡のようにサァラの顔を映している窓に気がついた。

村には木の板でできた窓しかなかったのだけれど、守神様の屋敷の窓は透き通る板がはめられていて、それが夜の闇を背景にサァラの顔をくっきり浮かび上がらせていた。

「サァラ………、理由はそれだけ?」

サァラが動揺しているのが見てとれた。

リジュアは何か他に理由があるのをさとって、思いめぐらせた。

「えっと、サァラは守神様のこと好きなんでしょ?」

サァラは真剣な表情でうなづいた。

「じゃあ、ずっと一緒にいたいでしょ?」

それを訊かれたサァラは唇をキュッと結んで目を閉じた。

うなづくこともなく、返事もない。

「………ごめんね。意地悪なきき方して………。」

リジュアは立ち上がってサァラの側まで行き、そっと後ろから肩に手を置いた。

「私………。」

サァラの目から涙がこぼれた。

「私、守神様が大好き………。」

サァラはポツリと言う。

「うん。」

サァラの背中に手をあてながら、リジュアは優しく促した。

「守神様はお優しいから、私があんな風になってしまったから可哀想に思って、お側においてくれようとなさってると思うの。

今までも………、私がここへ来たから………。

守神様がお心を痛めるようなこと………、終わりにしなきゃ。

だから、もう、忘れるの。」

「サァラ………。」

サァラのひと言、ひと言から、守神様への思いが伝わってきた。

「サァラ………、あのね………、」

リジュアがサァラに話しかけようとしたとき、誰かが部屋に入ってくる気配がして、二人とも振り返った。

「サァラ………。」

そこには、眉をしかめて切な気な顔の守神様が立っていた。

リジュアはサァラの背中をさすると、守神様と入れ違いに部屋から出た。

サァラはリジュアが出ていくと、また窓の方へ向き、守神様に背を向けた。
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