守神様の想い人
アミルがサァラを解放したのは、もうお昼近くのことだった。

『………ごめん、サァラ。大丈夫?』

だるさで起き上がれないサァラの髪を撫でながら心配そうにアミルが声をかけた。

サァラは笑顔で応えようとするものの、頬にかかる自分の髪をすくうことさえ出来ないほど疲れはてていた。

『少し眠るといいかも………。』

頬の髪を耳にかけてやりながらアミルが顔をのぞきこむと、サァラは軽くうなづいて目を閉じた。

サァラが規則正しい寝息をたてだしたのを見計らって、アミルはそっと寝室をあとにする。

屋敷の外に出ると、朝方に降り始めた雪が辺りを真っ白に染めながら、まだ降り続いていた。

アミルはその景色を見ながら、あることを思いつき、一人でニコッと微笑んだ。



『んん………、』

サァラが少しだるさの残る体で寝返りをうって、明るい窓の外を薄目を開けて見ていると、何かがヒラヒラと舞っているのに気がついた。

(ああ、雪が降ってるんだ………。)

半身を手で支えながら起こし、服を羽織り窓の側へ行こうとした、その時、寝室のドアがそっと開けられた。

『………サァラ、あ、起きたの?』

アミルがそう言いながら、嬉しそうにサァラの側へとやってくる。

『うん。ちょうど今、起きたの。』

『具合はどう?』

サァラが微笑むと、アミルがサァラの頬を包み、額に短いキスをした。

『もう、大丈夫だよ。アミル、ありがとう。』

今までの二人の思い出すべてが戻ったサァラは、自分を見て嬉しそうに頬笑むアミルの過去を思い、よりいっそう愛しさが増していた。

サァラがアミルと想いを交わしてから、荒れていた森も落ち着いたように思える………、それは、明らかに、アミルの心情が反映しているようだった。

アミルは元から落ち着いた性格なのだが、この穏和な温かさはアミルの心の平安によってもたらされていることは、サァラも記憶が戻ったことで、今ではよくわかる。

アミルがずっと穏やかに微笑んでいられるように、ずっと側にいてあげたいと思いながら、アミルの胸にピタッと寄り添い、背中に回した腕に力を込め、ぎゅっと抱きしめた。

『サァラ………。』

アミルもそれに応えるように、サァラを包み込むように抱きしめた。

『ねぇ、サァラ、少し外に出て………、見せたいものがあるんだ。』

アミルは幼い子供のような笑顔でサァラの手を引き、外へと連れ出した。

扉から外へ出ると、儚げな薄桃色の花片のようなものがヒラヒラと舞い踊っていた。

『!!』

あまりの美しさに思わず言葉を失ったサァラに、アミルは上を見るように促した。

とたん、明るい薄曇りの空を背景に淡い桃色の花吹雪の渦に飲み込まれる。

そのあまりにも幻想的な美しさに自分の存在も忘れてしまいそうになりながら、アミルの腕にしがみつき、二人一緒にしばらく空を見上げていた。

『ねぇ、アミル?これ………、花びらみたいだけど………、雪?』

『うん。光の加減で舞う雪だけ染まって見えるようにしたんだ。………気に入った?』

サァラはアミルに微笑みながら答えた。

『とっても………。ありがとう、アミル。』

素直に喜ぶサァラを見て、アミルも嬉しくなり、優しくサァラにキスをした。

『次は、お天気がいい日に海を見に行こうね。冬は風がきついから………。』

コクンとうなづきながら、また空を見上げる。

今では、あの海での記憶もすべて思い出せていた。

微笑み合う二人の思い出や、悲しい記憶も………。

『ねぇ、アミル………。』

『ん?』

視線をサァラに向けて、アミルが頬笑む。

『アミル、今までありがとう。………ずっと、私を想い続けてくれて。私もこれからアミルのこと、うんと大事にするね。』

『サァラ………。』

ポッと頬を赤くしてアミルがサァラを見つめる。

それから、思い出したように話し出す。

『そ、それは私の言う台詞だよ。サァラは私が記憶を消しても愛してくれてた。サァラには何て謝ればいいのかわからない。私のほうこそ………、愛してくれて、ありがとう。ずっと側にいさせて。………………愛してるよ。』

そう言って、サァラを真正面から見据えて抱きしめた。

降りしきる薄桃色の雪が二人を包み込んで周りから隠していく。

『ああ、今日はサァラを休ませてあげなきゃと思ってたのに。でも、このまま二人でいたら我慢できなくなる!ねぇ、ミアたちのところへ遊びに行こう?』

サァラは必死な顔でそう話すアミルを見て、小さく吹き出してしまった。

アミルは困った顔でサァラを見つめている。

『アミル………、私なら………、もう大丈夫だよ?』

サァラはアミルの首に両腕をまわして引き寄せ、少し背伸びして自分からキスをした。

今までアミルがどんなに我慢してくれていたかわかったから………………。

驚いていたアミルは、しばらくうっとりとキスをされるがままに受けていたが、そのうち、応えるようにサァラをきつく抱きしめ、キスを深くした。

サァラの膝から力が抜けてきたタイミングで、サァラを横抱きに抱え、屋敷の中へ連れ戻す。

アミルは熱を帯びた瞳でサァラを見つめ、内から溢れ出す恋慕の思いを直接、サァラの肌へと伝えようとするかのように唇と舌を這わせた。

『やぁ、あっ………、アミル………。』

アミルは眉を寄せながら、サァラの内腿をなであげる。

『っっ!』

はねあがったサァラの体を腕に抱き留めて、アミルは体を重ねた。

『ぁあっ!』

『サァラ………、』

何かに耐えるように目を瞑るサァラの目尻から涙が伝うとアミルはそれを唇で拭った。
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