エキストラヒロイン
最悪のシチュエーションで来栖くんと曲がり角で遭遇してしまったことに。
「………?」
あの来栖王子が、念願の美青年が、近距離に。
その美貌に目が眩みそうになったあたしの意識を引き留めたのは、最初にゴリラ呼ばわりしてきた男だった。
「おい来栖聞いてくれよ!こいつゴリラなんだって!」
てめぇ、あとでぶっ殺す。
「来栖くんっ、ちがうよ。この子、きっと迷惑かけないように自分で重いノート運ぼうとしてて…それで…」
中条さんがすかさずあたしのフォローに入った。
この女…、来栖くんにまで媚び売るつもりか?
上手くあたしのことを弁護しているつもりだろうけど、瞳の奥のギラギラした肉食動物の片鱗が、あたしには見える。
「あぁ、ほんとだ。重そうだね。貸して」
そういって、来栖くんはあたしが抱えていたノートを軽々と全部持ってくれた。
これは一緒に職員室までノートを運べるイベントでは!?
「あたしもっ」
「女の子にはちょっと重いから、これは俺が持っていくよ。職員室でいい?」
「………あ…、うん」
なかったようだ。
あたしの代わりにノートを運んでくれる来栖くんの背中を見送ったあと、周りの男子をギロッと睨みつける。
「なんだよヤマダゴリラ」
「人外扱いするのやめてくれない?」
「ぶはっ、人外ヤマダゴリラ!」
待ち伏せした結果。
しばらくあたしは『人外ヤマダゴリラ』になった。