記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
マーブル模様のマフィンは大きく、程よい甘さに満足していると、視線を感じた。
顔を横に向ければ、赤信号で車を止めた朔が雪乃の口元を見ている。
「なに? 食べたいの? ほら」
一つしか買わなかったことを後悔いているのかと思って、彼の口元にマフィンをずいっと近づけると、その目が大きく見開かれた。
「美味しいわよ?」
さらに畳み掛けると、ようやく口を開いた朔がマフィンをかじった。
「ね?」
「う、うん……美味いね。あとは全部食べなよ」
「もういいの?」
小さく頷き視線を道路に戻した朔の頬が、うっすらと赤い気がしたが、彼が照れるようなことをした覚えのない雪乃には意味が分からなかった。
お言葉に甘えて残りのマフィンを平らげ、まだ程よく温かいコーヒーで一息つく。車内に静かに感じるくらいの音量で音楽が流れていて、沈黙が重荷ではない。
シートに身を沈めてリラックスしながら、窓の外に視線を向けてみるが、来たことのない場所で行き先はまったく分からない。
「そろそろ、ヒントをくれてもいいんじゃない?」
「そうだな……デートの定番スポットって言ったら簡単に分かっちゃいそうだな」
デートの定番スポット。
そのワードに、雪乃はワクワクしていた気持ちが萎んでいくのを感じた。
ショッピングや映画館ならマンションの近くの複合施設にあるから車で行く必要はない。
時間的に夜景を身に行くとは思えない。
そうなると、雪乃の頭に浮かぶのは一つしかなかった。