記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「動物園なんて何年振りだろ」
「イギリス時代に行ったりしなかったの? その……彼女とかと」
「うーん、行かなかったよ。行くのは、クラブばかりだったから」
薄暗く、色とりどりのライトが人々を照らし、会話もままならないほどの音楽で満たされる場所で、女の子と体を寄せ合う朔の姿は、簡単に雪乃の頭の中に浮かんできた。
むしろ、朔のビジュアルなら絵になりすぎて、海外ドラマのワンシーンのようだろう。
「ヒナは? どんな休日を過ごしてたの?」
「休みの日は、卓馬と白馬でスノーシューしたり、色々な場所の自然の絶景の写真を撮りに行ったりかな」
「卓馬とね……」
「ちょっと、やめてよね。ほとんど日帰りだし」
「ほとんどってことは、泊まりもあったってことだろ?」
「部屋は別なんだからいいでしょうが!」
そんな風に話している間に、二人はアフリカ園に来ていた。
ここで雪乃が食いついたのは、チーターとサーバル、ライオンだ。
ただ動物園を見ていると、時には動物が窮屈そうに見えてしまう。追いかける獲物がないというのは、動物の本能にとってどうなのだろうかと。
もちろん、保護の観点からはいいことだとは思う。
けれど、アメリカで見た国立公園を思い出すと、ここでの動物は生き生きさにかける気がする。
のんびりと短い日照時間を最大限に活用すべく、日なたで寝そべっているチーター。近くには三頭の子供の姿があった。
その光景を見ていると、勝手に生き生きしていない、幸せではないんじゃないかという考えは間違いかもしれないと思いはじめてきた。
産まれも育ちも動物園の動物にとって、フェンスの中で決まった時間に食事が出てくる場所は安全で、多くの子供たちが育つ環境は、地上の楽園なのかもしれないとーー。
雪乃は実にあっさりとフェンスに背を向けると、朔の手を引いた。