記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!





 少し離されている間に冷えきったお互いの手が合わさったことで、じんわりとした温もりが広がっていく。
 人間観察をかねてカフェから外を眺めている時、常に手を繋いでいるカップルを見るたびに、片手をずっと塞がれていたら不便だろうし、嫌だなと思っていた雪乃だが、いざ実際に自分が経験してみると不思議な気分だった。
 朔が繋いだ手が利き手じゃないからかもしれないが、不便さは感じない。
 他人に触られるのが苦手だが、相手を信頼しているからか嫌悪感もない。
 むしろ、雪乃は安心感を覚えていた。
 
「ほら、あそこがオオカミの広場みたいだよ」

 頭上から声をかけられて、はっとした雪乃は示された方を見て顔を綻ばせた。
 駆け寄るために手を離そうとすると、朔は手から力を抜いて彼女の手が滑り出ていくままに行かせてくれる。
 覗き込むような形の広場には、山のように土を盛られたところがあり、所々に土管が埋められていてオオカミの巣穴のようになっていた。
 楽しげな唸り声のする方を見ると、一本の大きな骨をオオカミたちが奪い合う遊びをしているのが目に映った。
 冬のおかげで、しっかりとした冬毛が生えており、より体が大きく見える。
 
「オオカミはいた?」

「ほら、あそこで遊んでる。この季節でよかった」

「どうして?」

「だって、夏場のオオカミって冬毛が抜けてほっそりとしてるし、動物園にいる子たちはなかなか動かないんだよ? 暑いからしょうがないんだけどね」

「遠巻きに見てると、近所の犬が引っ張り合いしてるみたいだな」

 しばらくの間、二人で遊び回るオオカミを眺めていると、朔が腕時計に視線を向けるようになった。
 雪乃としてはもっと眺めていたいところだが、やはり興味のない人を付き合わせるのは悪いと思って名残惜しく思いながらオオカミに背を向けた。




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