記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「どうしたの、ヒナ?」
「そろそろ行こうかなと思って」
「どうして?」
「だって、朔は退屈でしょ? 時間気にしてるみたいだから、なにか予定でもあるのかと思って」
「えっ?」
朔は気付かれていたのかって顔をした。
「いいよ。動物園ならいつでも来られるし」
そんな心配をよそに、朔はくすっと笑うと雪乃の手を引いてガラスの前に座らせると彼はしゃがんだ。
「変な心配させてごめん。最初から言っておくべきだったな」
「なにが?」
「昨日、調べておいたんだけど、正午を告げる時計の音に合わせて、オオカミが遠吠えするらしんだよ。もうすぐだから、それを聞かせようと思って時間を気にしてたんだ」
「嘘っ! 遠吠えが聞けるの?」
「そうだよ。あと少しだけど、冷えるから俺は温かい飲み物を買ってくるよ」
朔は立ち上がり、ここに来るまでに調べておいたのか、迷うことなく進んでいった。
その背を見送った雪乃は、鞄からカメラとスマートフォンを取り出した。
追いかけあったり、戯れあったりするオオカミの姿を何枚も写真に収め、スマートフォンはいつ遠吠えが始まってもいいようにヴォイスレコーダーの画面にしておく。
近くにある時計を見ると、あと二分ほどで正午である。
スマートフォンを手に取り、ベンチに座ってどきどきしながら待つ一分は、ひどく長く感じ緊張してきた。