記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
11 触れ合う心
マンションに戻るまでの時間。
部屋に入るまでの時間。
雪乃と朔は一言も話さなかった。
そんな時間を過ごしていたから、彼の部屋に先に入り靴を脱ぐ彼女の耳には、扉が閉まる音も鍵のかかる音も、嫌に大きく聞こえた。
「ヒナ」
何時間かぶりに聞く朔の声は、なんとなくざらついて聞こえて、雪乃はびくりと肩を揺らした。
「な、なに?」
「昼、買っておいたカツサンドでいいかな? もっとがっつりしたものがよかったら、パスタでも作るけど……」
「ううん、カツサンドでいい。なにか手伝おうか?」
「ただ皿に出すだけだから、大丈夫だよ。でも、言ってくれてありがとう。ヒナはテレビでも見てなよ」
ふんわりと笑った朔はコートを脱ぎながら追い越して部屋に入っていき、セーター姿で戻ってきてソファーの近くで、コートを脱ぐ雪乃に近づくと手で軽く顎を掬い上げ、しっとりとしたキスをする。
コートを脱いでいる途中だった雪乃は、一瞬固まってしまった。
ここまでキス魔だとは思ってもいなかった彼女とは裏腹に、朔はペロリと唇を舐めるとキッチンへと移動していく。