記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!




 朔が初めてのキスの相手であり、数日前にファーストキスを経験したばかりだというのに、彼からのキスに慣れつつあるうえに、雪乃自身ーー気に入りさえしている。
 脱いだ上着をソファーの背にかけ、どさりっと座り込むと膝に両肘を着いて手の平に顔を埋めた。
 自分がこんなに破廉恥で、触れ合いに飢えていたことに驚く。
 何度も物語の中では綴ってきたが、現実世界に変換されるとこれほど強烈だとは思いもしなかった。
 段々と座っているのも落ち着かなくなってきて、ふかふかのラグの敷かれた床に座り、ソファーにもたれ掛かりテレビの電源を入れた。
 時間的に情報番組かニュース、サスペンスしかやっていない。
 その中から、雪乃は緊張と妙な気まずさを和らげるべく、情報番組にチャンネルを合わせた。
 有名な芸人とよくテレビで見かけるモデルが司会をする番組は、色々な情報が得られることから雪乃もよく見ているが、今日はなんだかソワソワしていて頭に入ってこない。
 
「お待たせ、ヒナ。紅茶でよかったかな?」

 ことりっ、と目の前のテーブルに湯気の立つカップが置かれ、豊かな香りが鼻を掠めていく。

「渋味の少ないアッサムにしておいたよ」

 雪乃の右後ろに座った朔は、肘かけにあるテーブル部分に皿とソーサーを置くと、優雅にカップに口をつけた。
 同じように彼女もカップに口をつけると、外を歩いたせいで冷えた体に温かな紅茶がしみていく。

「おいしい」

 自分で入れた時とは比べものにならないほど、熱すぎず苦くない。



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