記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!





「クソッ! なんなんだよ」

 文句を零しながらもソファーから立ち上がった朔は、上半身に何も身につけずに玄関へと歩いていく。
 正直な話、雪乃も名残惜しく思っている。
 体の芯はいまだに熱を持っているが、スマートフォンに表示された名前に通話ボタンを押した。

「もしもし?」

「よお、雪。今、何してる?」

『誰だよ。何度も鳴らして』

 電話の向こうからは卓馬の声と一緒に、朔の声まで聞こえてきた。
 
「なんだよ、朔。いるんじゃないか」

「お前……絶対、わざとだろ」

 不機嫌そうな朔の声に、雪乃はスマートフォンの通話を切って、Tシャツを身につけると玄関に急いだ。

「た、卓馬! どうしたの?」

「どうしたの? とは、酷いな。帰るって連絡しておいただろ」

「そうだけど」

 久しぶりに見る卓馬の顔に安心感より、なぜか決まり悪く感じてしまう。

「どうした、雪。顔が赤いぞ」

 腰を屈めた卓馬が雪乃の頬に手を伸ばそうとすると、その手首を朔が掴んだ。
 すると、何かを察したのか、口元を緩めた。



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