記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!





「あれか、オレはもしかして良いときを邪魔したか?」

 一目瞭然だろう。
 なかなか出ない電話と居留守。そして、上半身裸で不機嫌な様子の男ときたら誰でも分かる。
 雪乃は顔に熱が集まるのを感じて俯いてしまった。

「雪がいいと思ったならいいが……」

 彼女に向けていたものとは違う低い声になった卓馬は、一歩朔に詰め寄った。

「雪を傷つけたら許さないからな」

「ああ、わかってるよ。二度とそんなことはしない」

 同じように真剣な面持ちで、朔は誓いの言葉を口にした。
 そのうそ偽りのない声と気持ちを感じとり、凄むように立っていた卓馬は表情を緩めて朔の肩を押すと扉を閉めた。

「ヒナ。リビングに行こうか」

 彼に促されリビングに行き振り返ると、脱ぎ捨てたセーターを着るところだった。
 見事な筋肉が隠れてしまうことに、少なからずがっかりしている自分がいることに気がついて、雪乃は自分の厭らしさを思い知って顔を背けた。
 たしかにちょっぴりエッチな小説を書いてはいるが、自分が生身の人間に欲情出来るとは思ってもいなかった。
 
「ヒナ?」

 無防備に背中を向けていると、後ろから優しく抱きしめられた。耳にかかる吐息に、雪乃の胸はぎゅっと締め付けられる。



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