記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「受付の仕事は、雑談することか? それに、見た目で判断するなんてありえないだろ。君達じゃ、会社の顔とも言える場所での仕事は勤まらない。明日にでも異動の辞令があると思っておいて」
「「も、申し訳ありませんでした」」
二人が声を震わせながら頭を下げる様子を、雪乃は驚きの目で見ていた。
彼女たちが言っていたのが朔本人のことであるのは間違いない。つまりは、婚約者についての話もほんとだということだ。
「朔? それじゃあ、楽しいランチを」
朔の姿しか目に入っていなかった雪乃は、その後ろに細くて美人な女性がいることに気がつかなかった。
とても洗礼された美女だ。
道を歩けば、男なら感嘆のため息を吐くだろうし、女なら羨望の眼差しを向けるだろう。
雪乃が見ている前で、声をかけられた朔は振り返り彼女の腰に軽く触れながら頬にキスをした。
「君もね」
微笑み合う二人を見た瞬間、あの人が受付嬢たちが話していた婚約者なのだと気がついた。
あんなに綺麗な婚約者がいながら、なぜなのだろうかと疑問しか浮かばない。
会社という割にラフな服装の朔が歩いてくる自信に溢れた様子に、雪乃は文句を言いたい気持ちを飲み込んだ。この場で騒いで、要らぬ注目を浴びたくないし、会社で朔に変な噂が立つのも避けたかった。
「お待たせ、ヒナ。遅くなったせいで嫌な思いをさせてごめん」
震えて泣き出していまいそうな自分をどうにか抑えて、なんでもない振りを続けた。