記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「別に、今日は必要なかったんじゃない?」
「いいや、必要だね。どうせ、有名店のオードブルが口に合わなくて、食うもんがなくなるだろうからな」
「卓馬ってば、優しーい」
少し茶化して言うものの、この優しさが時に他の女性を傷つけてきた。
『あんたって、ほんと邪魔者。優先されるべきは彼女であるわたしなのに……いつだってあんたが優先される。少しは気を利かせなさいよ! いい歳なんだから彼から離れるべきだわ』
雪乃は、卓馬の最後の彼女を思い出していた。二年前の話だ。
二十六歳の頃で、その彼女は卓馬との結婚を望んでいた。
それまでも、歴代彼女たちに嫌味を言われることはあっても、特に気にしたことがなかったのに、泣きながら言われた言葉に落ち込んだ。
居づらくなって、もともと計画していたスケジュールを速めることにした。
都会の人間が住みづらいと思うような土地に、雪乃は平屋のコテージを建てた。
コテージの裏には森が広がり、春夏は青々とした緑が眩しく、秋には紅葉した葉が落ちていき地面を落ち葉が彩る。冬には雪が降り、しんと静まり返って気分を落ち着けてくれる場所だ。
一ヶ月の半分を、一年の半分をそこで過ごすようになった。
卓馬には家の周りが騒がしくて、仕事に集中できないから建てたと話していたが、本当はただ逃げ出しただけ。
けれど、雪乃の努力も虚しく卓馬は彼女との恋人関係を解消した。
あれから三年、卓馬はフリーである。
雪乃との関係を疑われたり、口出しされるのに疲れてしまったのだと言って。