記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「おい。またくだらない事を考えてるだろ」
不意にかけられた言葉に、雪乃は目を向けていた窓の外を流れる景色から卓馬へと視線を移した。
運転中である彼は顔を前に向けたまま、視線だけで雪乃を時折見ている。
そのちょっとした仕草も、車の運転も絵になる男だとつくづく思う。
同窓会が終わったら、今まで以上に距離を置いた方がいいのかもしれない。
雪乃に向けていた注意力を別のところに向けられるようになれば、卓馬自身が好きだと思える女性に出会えるはずだ。
「別に……考えてませんけど」
「そうか? オレには、同窓会が終わったら逃げようと思っているように見えるけどな。また、連絡すら断つ気か? その顔には見覚えがあるぞ」
なにか言い返してやらなければと思っていたら、車は滑らかに店の裏にあるガレージに入っていく。
車がバックしはじめると、卓馬の自慢の工具たちが壁にぶら下げられているのが見えてくる。雪乃が贈った工具も混ざっているなと見ていると、タイヤが車止めに当たる感覚に、これから人の溢れる場所で数時間を過ごさなければいけないのかと意識してウンザリしてくる。
大きなため息を吐いていると、外から助手席のドアが開けられた。
「どうした?」
「あー、今更ながらどうして出席に丸つけちゃったかなぁと思ってさ。卓馬の店だからって、安易に考えたせいだわ」
「なんだよ、そんなことか。どうせ、飲みはじめたらどんちゃん騒ぎになんだろうから、バーカウンターの隅にでも座ってチキンでもつまんでろよ」
「はあー、頼もしいお言葉ですこと」
車から降りると、卓馬はドアを閉めて後ろのドアを開けて荷物を出しはじめた。両手が空いているから手伝おうと差し出すが、卓馬は「荷物はいいから扉を開けてくれ」と言った。
先に歩いてガレージの扉を開くと、そこは店とガレージの間にある庭になっている。時には仲のいい数人で集まってバーベキューをするプライベート空間だ。雪乃も何度か参加したことがある。
そして、元カノに泣いて責められた嫌な思い出の場所でもある。