記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!





★★★★★★★




 ランチを断られた朔は食事をする気にもならず家で仕事をしようと、自宅マンションのエレベーターに乗った時にも消えない苛立ちに苛まれていた。
 全てはあの見た目重視で、仕事の場を玉の輿を狙うための婚活パーティー会場と勘違いしているふざけた二人のせいだ。
 ようやく近づきつつある二人の距離が、また遠退いた気がしてならない。
 どうにかつなぎ止めようとポケットからスマートフォンを取り出し、会えないかメールを打つ。
 送信が完了と共に開いたエレベーターの扉の向こうには、予想外にも卓馬の姿があった。

「なんのよう……って、なんだよ!」

 挨拶を交わす間もなく、胸倉を掴まれて廊下の壁に押さえ付けられた。
 
「なんだよって、なんだ! お前、雪になにした」

「はっ? 意味が」

「雪が出て行った。今まで、手紙一つで帰ったことなんてないのにだ。おまけに、自分で持ち込んだものが全部なくなってたんだぞ」

 朔は血の気が引いて、心臓が冷たくなるのを感じた。
 卓馬の手を振り払い、すぐさまスマートフォンを取り出して画面を開く。
 彼女からの返信はまだない。
 もともと、すぐに返すタイプではない彼女だ。そこは重要ではない。
 電話帳を呼び出して、電話をかけてみるがーー。
 聞こえてきたのは、留守番電話サービスの声だけだった。








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